遺品整理ができない現場——孤独死の後に残されたもの

散らかった室内ある日、一本の電話がかかってきました。
「孤独死の現場があるのですが、遺品整理をお願いできますか?」

私たち遺品整理業者にとって、こうした依頼は決して珍しくはありません。しかし、この案件は少し事情が異なっていました。故人には保証人として親族がいましたが、「遺品整理の費用は支払えない」という理由で、作業を依頼できなかったのです。

 

故人は一人暮らしの高齢男性でした。数週間ものあいだ誰にも気づかれることなく、静かにその命を終えていたそうです。亡くなったあと、異変に気づいた親族が警察に通報し、ようやく発見されました。

孤独死が発生した住居では、遺品整理や清掃を行い、部屋を適切な状態に戻す必要があります。特に賃貸物件では、次の入居者を迎えるためにも早急な対応が求められます。しかし、それには費用がかかります。今回は遺品整理の費用として約20万円が必要でした。しかし、故人は万が一のときの保険に加入しておらず、保証人の親族もその費用を支払うことができませんでした。

その結果、遺品整理は行われませんでした。

遺品整理が行われなければ、故人の持ち物はそのままの状態で放置されることになります。管理者としては部屋を片付けたいところですが、費用の問題が立ちはだかります。

こうした孤独死の現場は、決して珍しいものではなくなってきています。特に高齢化が進む日本では、今後ますます増えていくことでしょう。しかし、その後の片付けや清掃にかかる費用については、まだ十分に認識されていないのが実情です。

特に、いわゆるゴミ屋敷の状態になっている場合は、費用がさらに高額になります。物が多ければ多いほど人手が必要となり、運搬費や処分費もかさむためです。場合によっては、遺品整理と特殊清掃を合わせて数十万円以上の費用がかかることもあります。今回のように支払いが難しい場合、部屋をそのままにしておくしかないという状況に陥ってしまうのです。

散らかった室内こうした事態を防ぐためには、事前の対策が欠かせません。まずは保険に加入し、万が一のときに遺品整理や清掃の費用をカバーできるよう備えておくことが大切です。また、生前整理として遺品を少しずつ片付けておくことも有効でしょう。

人は誰しも最期の瞬間をどのように迎えるかを選ぶことはできません。しかし、その後のことについては事前に備えることができます。家族に負担をかけないためにも、自分の持ち物やお金のことを整理しておく。それが、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。

この男性の部屋は、今も静かに時間が止まったままです。誰も手を付けることなく、彼の遺品が残されたままの空間だけが取り残されています。

私たちにできることは何なのでしょうか。目の当たりにしたこの現場を通じて、改めて考えさせられました。